コラム/ columns

Nuck管水腫

2018/04/13

Nuck管水腫とは、20代~40代の女性に多く見られる鼠径ヘルニアと似た疾患です。
鼠径部に膨らみが起こり、その見た目は鼠径ヘルニアとほとんど変わりません。

Nuck管水腫の概念

Nuck管とは女性の胎生期に存在する鼠径部(腿の付け根)の構造のことを言います。

本来は出生とともに消えていくものですが、残ってしまう人もいます。
それが嚢腫(のうしゅ)や水腫(すいしゅ)と呼ばれる袋となり、内部に液体を伴うようになります。

それが大きくなるとふくらみができ、症状に気付くようになります。
成人では20代~40代の女性に多くみられます。

 

Nuck管水腫の診断

「身体の表面からの触診」
Nuck管水腫の症状では、鼠径ヘルニアと同様に鼠径部の膨らみがあります。
見た目だけでは、鼠径ヘルニアとの区別がつかないこともあります。

「画像診断装置(CT、MRI、超音波)」
画像診断の結果、液体が描出できればNuck管水腫であることを疑いますが、女性の場合、月経に連動して腹水が増え、鼠径ヘルニアのヘルニア嚢に腹水が流れ込むことでも同じような像になるため、Nuck管水腫なのか鼠径ヘルニアなのか判断できない場合もあります。
時々、Nuck管水腫と鼠径ヘルニアの併存例もあり、鼠径部子宮内膜症が見つかることもあります。

 

Nuck管水腫の治療

「穿刺吸引」
注射針で内部の液体を吸い上げる治療です。
一時的には症状はよくなりますが、すぐに元に戻ってしまうことが多いので、あまりお勧めはできません。
身体の負担が大きい処置ではないので、そのことをご理解いただくために穿刺することもあります。※ご希望の強いかたのみ

「手術」
Nuck管水腫の手術では嚢腫の開放・除去を行います。
鼠径ヘルニアの併存もしくは将来的な発生が予見される場合はメッシュを使用することもあります。
鼠径部切開でも腹腔鏡でも根治的な手術は可能ですが、後者のほうが、キズが小さく痛みも少ないため女性の患者さまに喜んでいただいています。
もし、鼠径部子宮内膜症が併存する場合は鼠径部の切開が必須とされることもあるため、事前に医師に確認をしてください。

「術後経過」
鼠径ヘルニア手術とほとんど同じです。
術後しばらく鼠径部の腫れが残ることがありますが、次第によくなっていきます。
ほとんどの患者様が、1回の術後診察(数日から数週)で患者さまが終了します。

「再発」
再発の頻度は低いです。
鼠径ヘルニア併存の場合はその再発の可能性はありますが、正しく手術が行われていれば、それもごくわずかだと思います。

 

よくある質問

「手術のタイミングについて」

妊娠中に手術を行うことは基本的にお勧めしませんが、手術後すぐに妊娠したり、出産してからすぐに手術をうけたりすることは問題ありませんのでご安心ください。
また、膨らみのみの場合は手術を急ぐ必要はありません。
Nuck管水腫が自然に治ることは考えにくいのですが、放置により「手遅れ」となることはない疾患です。
ただし痛みを伴ってくる場合は、それが妊娠中や育児などで忙しい時期であればご負担も大きいかと思います。
痛みはいつ起こるかわからないものなので、生活上余裕のあるときに手術を受けていただくことをお勧めします。

 

「術式について」

・子宮円索(子宮円靭帯)に対する処理
発生学的にはNuck管と子宮円索の癒合は強固であるため、一緒に切断しなければなりません。
それを行うことで手術後の痛みが増すということはありません。
また、子宮円索を切断して、不妊になることもありませんのでご安心ください。
実際に切断しなくて済むのは小さい鼠径ヘルニアに対しメッシュを用いない手術を選択する場合のみとなります。

円靭帯内部には血流があり、それが妊娠継続に重要な働きをしているという報告もありますが、そもそも子宮を栄養する血管は他にもあり、一般的には子宮の血流障害という病態は考えにくく、相対的に増量した子宮円索内の血流をみて「重要な働き」と断定するのは早計と思われます。

 

「メッシュの必要性」

疾患がNuck管水腫単独の場合は必須ではありません。
しかし、鼠径ヘルニアが併存しているケースも少なからずあります。

現行のヘルニア治療ガイドライン(日本ヘルニア学会編)は成人鼠径ヘルニアに対しては原則としてメッシュ使用をするという考え方があります。
確かに、女性に関しては異論もいろいろありますので、原則はメッシュ使用としながらも、患者さまのご希望に合わせて術式を選択いたします。

いずれにせよ、メッシュが妊娠に悪影響であるということはありません。
メッシュによる違和感がある場合もありますが、妊娠したから違和感に繋がりやすいという考えも出典が不明確です。

 

「生理周期に連動して痛みに変化がある場合気をつけることは」

痛みがある場合は子宮内膜症の併存の可能性があります。
その場合、問診触診とCTなどの画像診断で検査を行います。
Nuck管水腫単独でも月経に連動した痛みの波はありえます。

なお、鼠径部の子宮内膜症については、一般的には婦人科医の認知度は少なく、鼠径ヘルニアを専門としている一部の外科医のみが診断と手術が可能です。
また、その医師の所属する病院に婦人科があるかどうかは問題にはなりませんのでご安心ください。

 

最後に

日常聞きなれない病名から不安な気持ちになっておられる方もいらっしゃると思いますが、治療可能な病気ですのでご安心ください。
手術の時期決定は最終的には患者さまのお気持ち・状況次第ではありますが、当院では日帰りで苦痛少なく治療を受ける事ができます。
まずはお気軽にご相談ください。

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■文責
医療法人社団博施会理事長 大橋 直樹
(日本外科学会認定外科専門医)

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