コラム/ columns

再発に関する治療戦略の概要

2025/09/03

鼠径ヘルニア(脱腸)は、稀ではありますが再発(=recurrence)する可能性があります。
このページでは、なぜ鼠径ヘルニア(脱腸)が再発してしまったのか私なりの考えを申し上げます。現在のところ、我が国のヘルニア診療ガイドラインにおいては、再発鼠径ヘルニアに対する治療方針について、統一された見解はありません。

しかし、さまざまな再発鼠径ヘルニアの患者さんを診てきた私の経験と治療戦略は、公式の学術集会(第28回日本内視鏡外科学会総会)で発表され、フロアからの評価もあったため、一定のコンセンサスを得ているものと考えてよいかと思います。その概要を以下にまとめさせていただきます。

なせ鼠径ヘルニアが再発してしまったのかを考える
やむをえなかったのか?防ぐことができたのか?

ヘルニアの治療論上、再発の理由が「やむを得ないもの」か、「防ぎえたものか」を分類することを提唱します。

やむを得ない再発(AR=Acceptable Recurrence)

  • 小児期に手術したものが成人になって再発した場合
  • 主治医とよく話し合った末メッシュを使用しなかった場合
  • 巨大なヘルニアに対し相応のメッシュをきれいに敷いたが再発した場合
  • 下腹部の手術後(前立腺全摘後など)に発生したヘルニアに対しメッシュを使用したが十分な範囲を敷くことができなかった場合
  • 閉鎖孔ヘルニア(一般的にはルーチンで閉鎖孔までメッシュを覆うことは稀)の場合

防ぐことができた再発(PR=Preventable Recurrence)

  • パリエタライゼーション・腹膜鞘状突起の処理がされずにメッシュを敷かれた後に外鼠径型を再発した場合
  • 腹直筋外縁までメッシュが到達していない内鼠径型の再発の場合
  • プラグを入れたが、手術後の経年変化で収縮してしまい、用をなさなくなった場合
  • リヒテンシュタイン法後の大腿ヘルニアを発症した場合
    (頻度的には少ないが理論的には起こる可能性があるためPRに分類)

このPR(防ぐことができた再発)の実態を、外科医そして患者様に広く知っていただき、日本のヘルニア治療の質が底上げされるように努めたいと思っています。

再手術が必要になった鼠径ヘルニア(脱腸)の症例

ケース1

左の外側の再発。他院で腹腔鏡下(内視鏡下)に行われた手術。パリエタライゼーションという概念がなかったのか、外側(写真左側)にはほとんどメッシュがない。

ケース2

メッシュはぐちゃぐちゃ。
ここまでひどいと初回の敷き方がいいかげんだったと考えざるをえない。

再発した鼠径ヘルニア(脱腸)に対して行う手術法

前回手術でメッシュが使われていない場合
メッシュを用いた標準的な腹腔鏡下(内視鏡下)ヘルニア修復術が可能です。
前回手術にメッシュが使われた場合
一般的にメッシュの周囲の手術操作には高い技量が要求されます。ヘルニアの状況と患者様の背景に合わせて、柔軟で適切な治療法を選択する必要があります。

Total replacement 法(TR法)

前回手術のメッシュを全て摘出し、新しいメッシュを敷く方法です。

長所
メッシュの摘出が安全に行われる限りはこの方法がもっとも確実です。前回の手術をリセットできるので、前回の情報がなくても効果的な手術ができます。
短所
若い男性などで輸精管の損傷が危惧される場合は施行できません。前回手術のメッシュを摘出する分、手術時間がかかります。メッシュの摘出は熟練した術者が行う必要があります。

Additional prosthesis法(AP法)

前回の手術で効果が出ている部分はそのままにして、不足部分のみ補う方法です。

長所
メッシュの追加は必要な部分だけで済むので操作上の安全性がTR法より高いです。
短所
前回の手術の情報が確かであることが前提になります。情報がないもしくは、手術中にメッシュを目で確認できないのであればTR法の方が確実です。

IPOM法(腹腔内onlayメッシュ法)

腸との癒着を防止する加工がされたメッシュを用います。

長所
腹膜の剥離やメッシュの摘出を行わないで済むので安全性が高い。
短所
IPOM法の長期成績に十分なエビデンスがない。そもそも初発の鼠径ヘルニアの手術では勧められていない術式です。再発においてもTR/APが困難な症例に限られるべきです。

ハイブリッド法

ハイブリッドと名前は立派ですが、要は腹腔鏡(内視鏡)と鼠径部切開の併用術式です。
難度の高い再発症例に用いますが、腹腔鏡(内視鏡)操作の練度が高い術者の場合は、切開を加えずとも腹腔鏡(内視鏡)単独で完成度の高い手術が行えるため出番は少ないです。

 

 

 

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